【弁護士解説】相続放棄で失敗しないための重要ポイントと正しい手続き
「親との関係があまり良くなかった」「多額の借金があるかもしれない」「処分に困る不動産を相続したくない」といった理由から、相続放棄を検討されている方は少なくありません。しかし、相続放棄は法律で定められた手続きであり、誤った対応をしてしまうと、意図せず多額の負債を背負ってしまうリスクがあります。
このコラムでは、当事務所がYouTubeで公開した動画の内容をもとに、相続放棄で失敗しないために特に注意すべきポイントと、正しい手続きの進め方について、弁護士が詳しく解説します。
そもそも「相続放棄」とは?
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や負債を一切受け継がないことを、家庭裁判所に申し立てる手続きのことを指します。
「私はいらないと兄に言った」といった口約束だけでは、裁判所の認める相続放棄には当たりません。必ず家庭裁判所への申請が必要です。
相続放棄が家庭裁判所に認められると、借金などの負債だけでなく、預金や不動産などの資産も一切受け取ることができなくなります。最近では、負債が多いケースだけでなく、処分に困る不動産があるために相続放棄を選ぶ方も増えています。
相続放棄の注意すべき5つのポイント
相続放棄の手続きを検討する上で、特に注意すべき点がいくつかあります。
ポイント1:期限は「原則3ヶ月以内」!
相続放棄の手続きは、亡くなったこと(被相続人が死亡したこと)を知ってから3ヶ月以内に行うのが原則です。この3ヶ月の期限は非常に重要で、原則としてこの期間を過ぎてからの相続放棄は認められません。
しかし、期限を過ぎてしまっても、後に多額の借金を知った場合や、判断能力がない状態であった場合など、救済措置が認められるケースもあります。また、3ヶ月以内の判断が難しい場合には、「熟慮期間の延長の申し立て」を行い、相続放棄の期間を伸ばす手続きも可能です。延長は常に認められるわけではありませんが、1回程度であれば認められることが多いでしょう。
いずれにしても、まずは3ヶ月以内に判断し、適切な手続きを取っておくことが望ましいです。
ポイント2:故人の遺産には絶対に「手を出さない」!
相続放棄は、負債だけでなく資産も「いらない」という意思表示です。そのため、相続放棄をすると決めた場合、遺産を処分したり、使ったりすることは基本的に許されません。例えば、故人の預金を解約してしまうような行為は危険です。
もし、相続放棄の申し立てをする前に遺産に手をつけてしまった場合、原則として相続放棄が認められなくなる可能性があります。ただし、例えば少額の預金に手を出した後に巨額の負債が判明したような場合には、救済措置が適用されることもありますので、すぐに専門家(弁護士)に相談することをお勧めします。
ポイント3:故人との賃貸契約や携帯契約の「解約は危険」!
故人が賃貸アパートに住んでいた場合、家賃の増加を懸念して、お子さんが大家さんのためにと賃貸契約の解約手続きをしてしまうケースがあります。しかし、このような行為は相続放棄ができない原因となる可能性があります。携帯電話の解約なども、基本的には処分行為と見なされるため注意が必要です。
これらの手続きは、故人が契約主体であった場合、相続人が行うべきではありません。相続放棄をする場合は、基本的にこれらの手続きは行わないでください。大家さん側で適切な処理方法がありますので、それに任せるしかありません。
また、お子さんが故人の賃貸契約の保証人になっている場合、故人の負債は払ってはいけない一方で、保証人としての家賃滞納や立ち退きまでの家賃の支払いは生じることがあり、非常に判断が難しい部分です。払っていいものと払ってはいけないものが混在するため、誤った判断で負債を支払ってしまうと、大家さんからは「相続した」と見なされ、全ての荷物の撤去や建物の処分費用まで要求される事態に発展する可能性があります。
ポイント4:まずは「財産調査を徹底」すること!
相続放棄をするかどうかを判断するためには、まず故人の財産状況をきっちりと調査することが非常に重要です。
- 資産:預貯金、不動産、自動車など。
- 負債:借金、そして処分に困る不動産の処分費用なども負債として認識する必要があります。例えば、土地を借りていて建物が故人名義の場合、その建物を処分する費用も負債として考える必要があります。
個人の借入などは調査が難しい場合もありますが、信用情報機関(主に3つ)に問い合わせることで、故人の借金の有無や内容を把握することができます。アプリなどからも調査が可能ですので、相続放棄を検討している方はもちろん、親に借金があったかもしれないと不安に思われている方もぜひ活用してください。
ポイント5:生命保険や死亡退職金は「受け取りに注意」!
生命保険金や死亡退職金については、受け取り人が指定されているケースが多くあります。原則として、受け取り人が指定されている生命保険金や死亡退職金は、相続放棄をしても受け取ることが可能です。これらは、受取人固有の財産と見なされるためです。
しかし、受け取ってはいけないものもいくつか存在します。
- 受取人指定がない生命保険は、原則として受け取ってはいけません。
- 生命保険に付帯する入院保証費用など、故人本人がもらうべきであったものは、死亡後に受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる可能性があります。
- 未払いの給料など、故人本人がもらうべきものであったものも、相続放棄をする場合は受け取ってはいけません。
- 共済(県民共済や全労災など)の中には、受取人指定がなくても受取順位が規約で決まっているものがあり、これらは固有の財産として認められ、受け取っても相続放棄ができる場合があります。
生命保険金などを受け取る際には、必ず保険会社に「相続放棄をしても受け取って良いものか」を確認し、問題のないものだけを受け取るようにしましょう。
相続放棄を検討している方がすべきこと
相続放棄の手続きは、ご自身で家庭裁判所のウェブサイトから資料を取り寄せて行うことも可能です。
しかし、
- 相続放棄の仕方が分からない。
- すでに一部預金に手をつけてしまった。
- 手続きが面倒だと感じる。
といった場合は、専門家(弁護士)に相談し、手続きを進めることをお勧めします。
多くの法律事務所では、相続に関する初回の相談を無料で受け付けています。相続の発生を知ってから3ヶ月以内という期限があるため、できるだけ早いタイミングで専門家に相談することが重要です。
当事務所でも、相続放棄をするかどうか悩んでいる方からのご相談を承っています。相続放棄が良いのか、熟慮期間延長の申し立てをしてゆっくり調査すべきか、あるいは限定承認という制度や、相続放棄をしても家を相続財産清算人から買い戻すといった選択肢など、お客様の状況に応じた最適な方法をご提案いたします。
まとめ
相続放棄は、多額の負債を抱えずに済む有効な手段ですが、その手続きには専門的な知識と迅速な対応が求められます。特に、遺産への不用意な接触や、賃貸契約の解約など、何気ない行動が相続放棄を困難にする可能性があります。
「もしかしたら間違ったことをしてしまったかもしれない」と感じる場合でも、まずは一度、専門家にご相談ください。当事務所では、お客様が安心して相続問題に向き合えるよう、親身にサポートさせていただきます。