遺産分割 問題解決の流れ
相続が発生して、遺産分割を行う場合、大きく分けると2つの流れがあります。
遺言書はありますか?
(1)遺産分割協議「前」に遺言が見つかったが、その後の対応に困っている
ア 自筆証書遺言の場合
亡くなった方がご自分で書いた自筆証書遺言を発見した場合、封筒に入れてあり、封がされている場合は、勝手に封を開けることはしてはいけません。そのような場合には、家庭裁判所での検認という手続きをした上で、家庭裁判所の書記官が開封することになっています。
自筆証書遺言を保管している人か、または発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、速やかに遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を請求しなければなりません。これで、偽造や変造を防ぐことになります。そして、家庭裁判所は、遺言があることを相続人に知らせます。裁判所に検認を申立する際には、申立書と一緒に遺言者の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本など提出します。検認の申立した後、相続人には、家庭裁判所から検認の日時などのお手紙が届くので、立会いを希望する相続人は立会えます。
検認とは、相続人に対し遺言の存在、その内容を知らせることと、遺言書の形状、枚数、訂正した箇所があるか、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、以後、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。ただし、裁判所が遺言書の内容の有効・無効を判断する手続きではありません。
検認手続きが終わると、家庭裁判所で検認をしたことの証明書を発行できるので、遺言書と一緒にその書類を使用して相続手続きを進めることになります。
仮に検認せずに、封をしてある自筆証書遺言を家庭裁判所外で開封すると、5万円以下の過料をかせられる可能性があります。罰金は刑事上の刑事罰になりますが、過料は行政上の罰則です。
イ 自筆証書遺言の保管制度を利用している場合
2020年7月10日からは、法務局で自筆証書遺言の保管の制度が始まりました。申請できるのは、遺言を書いた本人のみです。保管を申請できるのは、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地の法務局になります。このような場合には上記で記載した遺言検認という手続をすることなく手続に入ることができ簡便です。
ウ 公正証書遺言の場合
遺言者が死亡した後は、公証人から受け取っている遺言書正本・謄本などの書類で相続手続きを進めます。公正証書遺言は検認の手続きが不要です。
遺言を発見した場合にはその作成方法によって手続が異なりますので専門家への相談をお勧めします。
(2)遺産分割協議「後」に遺言が見つかったが、その後の対応に困っている
遺言は、遺言者の死亡の時から効力が発生します(民法985条1項)。つまり、被相続人の死亡した時点で、遺言の内容に基づく権利関係の変動が発生したことになるのです。したがって、遺産分割協議の後であっても、遺言が見つかった場合は、原則として遺言の内容が優先されます。なお、遺産分割は、協議・調停・審判のいずれかの方法によって行われますが、いずれの方法であっても、遺言の内容が優先することに変わりはありません。
しかし、相続人は、遺言の内容と異なる内容の遺産分割を成立させることができます。したがって、遺産分割後に遺言が見つかった場合であっても、相続人全員が既に行われた遺産分割の内容に合意している場合は、従前の遺産分割の内容を遺言に優先させることができます。ただし、相続人全員が、遺言の存在及び内容を知ったうえでの合意でなければなりません。遺言の隠匿は欠格事由にあたり、相続する資格がなくなってしまいますので(民法891条5号)、遺言が見つかった場合は、相続人全員に知らせ、内容を確認できるようにしてください。
相続人全員の合意があっても、遺産分割をやり直す必要がある場合
以下の場合は、遺産分割時に関与すべきだった者が関与できていなかったことになりますので、遺産分割時に関与した相続人全員が合意していたとしても、遺産分割の内容を実現させることができません。これらの場合は、改めて遺産分割をやり直せば、遺言内容と異なる内容の遺産分割を行うことができます。
1 遺言によって遺言執行者が選任されている場合
遺言執行者によって遺言内容が執行される可能性がありますので、遺言執行者の同意を得ておく必要があります。
2 遺言による認知がなされている場合
認知により相続人となった者を含め、遺産分割をやり直す必要があります。
3 相続人以外の第三者に遺贈させる内容の遺言の場合
当該第三者(「受遺者」といいます。)を含め、遺産分割をやり直す必要があります。
4 相続人が遺言によって廃除されていた場合
廃除された相続人を除いての遺産分割が必要となります。
相続人の合意が得られない場合の対応
たとえ1人であっても、相続人が、遺言が見つかったことをきっかけとして、既になされた遺産分割の内容を無効だと主張した場合、どうなるのでしょうか。
この場合、遺産分割が直ちに無効となる訳ではありません。
判例は、「遺言の存在を知っていれば遺産分割の合意をしなかったであろうといえる場合」には、遺産分割に錯誤があったとして、遺産分割を無効と判断しています。遺言内容と遺産分割内容の相違があまりない場合や、遺言の内容が明瞭ではないような場合は、「遺言の存在を知っていれば遺産分割の合意をしなかった」とまで言えず、遺言に当該遺産分割内容が優先するとして、遺産分割をやり直さなくてもよい可能性があります。
おわりに
遺産分割後に遺言が見つかった場合は、遺言の内容や相続人の反応によって、対応が異なりますので、専門家に相談してみることをお勧めします。
遺言の内容に不満がある
遺言は有効であるものの、遺留分を侵害されている場合には、相手方の相続人に対して遺留分侵害されたことを知ってから1年以内(かつ相続開始から10年以内)に遺留分減殺請求権を行使しなくてはなりません。行使した証拠を残すために内容証明郵便で発送する方がよいです。
公正証書遺言や自筆証書遺言の有効性に疑いがある場合には遺言無効確認訴訟を検討することになります。その場合にも仮に有効だった場合に備えて、上記で記載している遺留分減殺請求を予備的に相手方の相続人に主張していくことが必要です。
遺言内容に不満があるものの他の相続人間で話し合いができる場合には、遺言と異なる遺産分割協議することも可能です。